情報通信分野第一研究室 本島研究室

1. 現在の研究

1-1. 電波伝搬異常解析

 本研究テーマは、放送波やGPS波を観測してその変動を解析し、地震発生との関連性を 調べることで短期地震予測につなげることを目的とした研究です。

 一般に、地震予知は不可能であると言われていますが、最新の地震前駆現象に関する研究結果から、 地震発生の数週間~数時間前には電波伝搬に影響を及ぼすような地球規模の電磁気現象が起きている らしいことが分かってきました。

 当研究室でも放送波やGPS波の状態を解析することによって地球規模で起きている電磁気現象の異常を検出し、 それを用いることで地震発生を予測する試みを研究テーマとして取り組んでおります。

 具体的には、下記の3つの電波観測結果から地震に先立って発生する異常現象を検出し、地震との 関連性を解明しようとする研究テーマです。


○ 見通し内VHF帯放送波伝搬異常と地震発生との関連性解析

 VHF帯(Very High Frequency:超短波帯)の電波は、地球上空の電離層を突き抜けて飛び去ってしまいますが、 放送局から見通し内(地平線の手前まで)のエリアでは常時受信することができます。 しかし、気象やその他の様々な影響によって受信波の強度には変動が生じます

 本研究テーマでは、見通し内に存在する放送局からのVHF帯放送波(主にFM放送波:76~90MHz)を常時受信し、 その異常変動と地震発生との関連性を探究しております。

 今までの研究結果から、マグニチュード4.5以上、震源の深さが50km以浅、電波伝搬路から震央(震源真上の 地表点)までの距離が100km以内、の3条件を満たす地震が発生する場合、地震発生の数日~数時間前に 受信電波に異常変動が現れやすいことが分かってきました。

 地震発生前に必ず電波の異常変動が現れるわけではありませんし、また電波の異常変動後に必ず地震が発生する訳でも ありませんが、確率を計算すると両者の間に関連性が存在する可能性が高くなっています。

 上記の"DATA"メニューを選択すると、本研究室の自動電波観測装置で受信した電波の状態を 見ることができます。

1-2. 電磁波を用いた独自計測法

 本研究テーマは、電磁波の特性を利用した新たな独自計測方法を開発することを目的とした研究です。

 電磁波(電波)には、金属管内を伝搬する、絶縁性媒質を透過する、少ない電力で遠方まで到達する、 などの特性があります。 そこでそのような電磁波の特性を利用して、従来にない計測方法を考案し実用化を目指した研究をおこなっています。 具体的には、下記の3つの独自計測法をテーマとした研究をおこなっています。

○ 電磁波伝搬特性を用いた金属管内欠陥検出法

 大規模工場プラントなどでは多くの金属配管が使われていますが、これらの配管に異常(穴、き裂、変形、詰まり)が 生じると大きな災害の原因となる可能性があります。 これらの金属配管の異常検出のためには、超音波によるエコーを計測して異常を検出する方法や、X線による撮影に よって内部の様子を検査する方法などがあります。 これら従来からおこなわれている検査方法は、精度良く金属管の異常を検出することはできますが、 長大な金属配管が検査対象である場合には多くの手間と時間が必要となります。

 本研究テーマは、金属管内を伝搬する電磁波伝搬特性を計測することで、一度の計測で金属管全体を対象とした 異常検出を可能とする計測方法を確立することを目的としています。

 金属配管はその形状から、電磁波伝送路の一種である”円形導波管”と見なすことができます。 そのため、金属管の一端から電磁波を注入してやることで、電磁波は金属管内部を低損失で伝搬して他端まで 到達することができます。熱交換器で使われている何度も曲がりくねった金属管であってもスムースに伝搬します。 この金属管内を伝搬する電磁波の特性を利用し、計測器(ネットワークアナライザ)を用いて電磁波伝搬特性を 測定することで、1本の金属管全長にわたった異常検査をおこなうことができます。

 電磁波の計測方法も、

  1.異常部分からの反射を計測する方法(反射波到達時間から異常の位置が推定できる)

  2.一端から他端までの透過波を計測する方法(電磁波伝搬経路上の異常の有無が判定できる)

  3.電磁波伝搬の群速度を計測する方法(途中の金属管の詰まり具合などが測定できる)

 など、複数の独自の計測方法を考案し、計測可能であることの実証実験を行っています。

○ 非接触金属探傷法<終了>

 大規模構造物(高層ビルや橋)を支える金属材には高い信頼性が必要であり、またそれらが健全であるための メンテナンスが容易であることも大切です。

 本研究テーマは、電磁波を用いて金属板表面に生じたき裂を非接触かつ遠隔計測で検出可能とする独自計測法です。

 アンテナから金属板に向かって電磁波を照射すると、金属表面に高周波電流が励起され、反射電磁波となって再放射されます。 この反射波はアンテナにも影響を与えるため、アンテナの電気的特性に変化が生じます。 つまりアンテナと金属板相互の干渉によって、金属板の存在がアンテナの電気的特性に変化を生じさせます。 ところが、金属板上にき裂が存在している場合、金属板上に生じる高周波電流が変化する(き裂が金属表面の高周波電流の 流れを遮断する)ために、結果としてアンテナの電気的特性にも影響を与えます。 本研究テーマでは、このアンテナの電気的特性変化を計測することで、非接触の遠隔計測によって金属板上のき裂検出が 可能となります。

 アンテナと被計測対象である金属板との間が非接触だけでなく、電気的不導体であるならば問題なく検出可能です。 例えば、き裂を生じた金属板の上が塗装で覆われていて直接金属板表面を目視できない場合や、 断熱材にくるまれた金属材に生じたき裂なども検出可能な計測方法です。

○ 波動関数を用いた電磁波源遠隔推定法<終了>

 電磁波(電波)の振る舞いは、マックスウェルの方程式(電界と磁界の時空間の連立微分方程式)によって決定します。

 本研究テーマは、マックスウェルの方程式に支配された電磁波の振る舞いをうまく利用することによって、 遠隔計測点における電界を計測することで電磁波放射源の位置を推定することを目的にしています。

 不要なノイズなどは、その発生源を特定して対策することが重要ですが、電磁波プローブを広範囲にわたってスキャンできない などの場合には、ノイズ波源位置の特定が困難になります。 そこで本研究テーマは、波源から数メートル離れた位置に置いた電磁波計測用プローブで電界の振幅及び位相を計測し、 独自の計算方法によって波源位置を特定する新たな計測方法です。

 波源から放射される電磁波は、マックスウェルの方程式から求められる球波動関数に従った振る舞いをします。 しかし、波源が未知である場合には球波動関数には未定展開係数が含まれ、これらの未定係数を求める必要があります。 そこで本研究テーマでは、波源から離れた位置の電界(振幅・位相)を計測し、球波動関数と連立されて解くことで 未定展開係数を決定します。電界計測点は、波源を含む周辺領域の円周上に複数点配置します。 求められた未定展開係数を球波動関数に代入することで、波源位置を推定することができます。 波源から離れた遠隔点の電界を計測し、球波動関数を用いることで波源位置を特定する本手法は独自な計測方法です。

2. 過去の研究

2-2. IoTを用いた電力デマンド制御法

 2011年3月の東日本大震災で関東地方は一時的に電力不足となり、関東を5つの地域に分け順番に送電を止める ”計画停電”が実施されました。これによって約20%の電力需要を強制的に削減しました。

 一方、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーによる発電は、CO2の排出量を増やすことなく地球環境に 優しい発電方法ですが、天候に左右されやすく安定した電力供給ができない欠点があります。

 そこで本研究テーマでは、大規模災害や再生可能エネルギー発電の不安定などによる電力供給量の不足発生時に、 電力需要の末端である各家庭における電力需要をIoTを用いて制御することで家庭の電力需要を一時的に低減させ、 街全体の電力供給の逼迫に対応するシステムの開発を目的としています。

 本システムは、使用電力量をモニターし、その状況と目標電力上限値を各家電に無線通信(ZigBee)で伝達する スマートメータと、スマートメータからの情報を元にして独自判断で自分自身の使用する電力量を削減する 複数の家電製品(疑似家電)から構成されています。

 各家電製品(疑似家電)は、家電製品の機能にできるだけ影響を与えないような電力削減をおこない、 さらに全体としては合理的な電力需要削減ができるような独自考案のアルゴリズムを搭載しています。 また、できるだけシンプルかつ堅牢性と柔軟性が高いシステムとするために、スマートメータから発信される情報は 各家電製品への一方方向通信とし、さらに家電間相互のネゴシエーション無しでシステム全体として 合理的な電力削減ができるアルゴリズムを使っています。