本研究テーマは、電磁波の特性を利用した新たな独自計測方法を開発することを目的とした研究です。
電磁波(電波)には、金属管内を伝搬する、絶縁性媒質を透過する、少ない電力で遠方まで到達する、 などの特性があります。 そこでそのような電磁波の特性を利用して、従来にない計測方法を考案し実用化を目指した研究をおこなっています。 具体的には、下記の3つの独自計測法をテーマとした研究をおこなっています。
○ 電磁波伝搬特性を用いた金属管内欠陥検出法
大規模工場プラントなどでは多くの金属配管が使われていますが、これらの配管に異常(穴、き裂、変形、詰まり)が 生じると大きな災害の原因となる可能性があります。 これらの金属配管の異常検出のためには、超音波によるエコーを計測して異常を検出する方法や、X線による撮影に よって内部の様子を検査する方法などがあります。 これら従来からおこなわれている検査方法は、精度良く金属管の異常を検出することはできますが、 長大な金属配管が検査対象である場合には多くの手間と時間が必要となります。
本研究テーマは、金属管内を伝搬する電磁波伝搬特性を計測することで、一度の計測で金属管全体を対象とした 異常検出を可能とする計測方法を確立することを目的としています。
金属配管はその形状から、電磁波伝送路の一種である”円形導波管”と見なすことができます。 そのため、金属管の一端から電磁波を注入してやることで、電磁波は金属管内部を低損失で伝搬して他端まで 到達することができます。熱交換器で使われている何度も曲がりくねった金属管であってもスムースに伝搬します。 この金属管内を伝搬する電磁波の特性を利用し、計測器(ネットワークアナライザ)を用いて電磁波伝搬特性を 測定することで、1本の金属管全長にわたった異常検査をおこなうことができます。
電磁波の計測方法も、
1.異常部分からの反射を計測する方法(反射波到達時間から異常の位置が推定できる)
2.一端から他端までの透過波を計測する方法(電磁波伝搬経路上の異常の有無が判定できる)
3.電磁波伝搬の群速度を計測する方法(途中の金属管の詰まり具合などが測定できる)
など、複数の独自の計測方法を考案し、計測可能であることの実証実験を行っています。
○ 非接触金属探傷法<終了>
大規模構造物(高層ビルや橋)を支える金属材には高い信頼性が必要であり、またそれらが健全であるための メンテナンスが容易であることも大切です。
本研究テーマは、電磁波を用いて金属板表面に生じたき裂を非接触かつ遠隔計測で検出可能とする独自計測法です。
アンテナから金属板に向かって電磁波を照射すると、金属表面に高周波電流が励起され、反射電磁波となって再放射されます。 この反射波はアンテナにも影響を与えるため、アンテナの電気的特性に変化が生じます。 つまりアンテナと金属板相互の干渉によって、金属板の存在がアンテナの電気的特性に変化を生じさせます。 ところが、金属板上にき裂が存在している場合、金属板上に生じる高周波電流が変化する(き裂が金属表面の高周波電流の 流れを遮断する)ために、結果としてアンテナの電気的特性にも影響を与えます。 本研究テーマでは、このアンテナの電気的特性変化を計測することで、非接触の遠隔計測によって金属板上のき裂検出が 可能となります。
アンテナと被計測対象である金属板との間が非接触だけでなく、電気的不導体であるならば問題なく検出可能です。 例えば、き裂を生じた金属板の上が塗装で覆われていて直接金属板表面を目視できない場合や、 断熱材にくるまれた金属材に生じたき裂なども検出可能な計測方法です。
○ 波動関数を用いた電磁波源遠隔推定法<終了>
電磁波(電波)の振る舞いは、マックスウェルの方程式(電界と磁界の時空間の連立微分方程式)によって決定します。
本研究テーマは、マックスウェルの方程式に支配された電磁波の振る舞いをうまく利用することによって、 遠隔計測点における電界を計測することで電磁波放射源の位置を推定することを目的にしています。
不要なノイズなどは、その発生源を特定して対策することが重要ですが、電磁波プローブを広範囲にわたってスキャンできない などの場合には、ノイズ波源位置の特定が困難になります。 そこで本研究テーマは、波源から数メートル離れた位置に置いた電磁波計測用プローブで電界の振幅及び位相を計測し、 独自の計算方法によって波源位置を特定する新たな計測方法です。
波源から放射される電磁波は、マックスウェルの方程式から求められる球波動関数に従った振る舞いをします。 しかし、波源が未知である場合には球波動関数には未定展開係数が含まれ、これらの未定係数を求める必要があります。 そこで本研究テーマでは、波源から離れた位置の電界(振幅・位相)を計測し、球波動関数と連立されて解くことで 未定展開係数を決定します。電界計測点は、波源を含む周辺領域の円周上に複数点配置します。 求められた未定展開係数を球波動関数に代入することで、波源位置を推定することができます。 波源から離れた遠隔点の電界を計測し、球波動関数を用いることで波源位置を特定する本手法は独自な計測方法です。