近傍電磁界を用いたアンテナ特性解析
研究者 小林 允

 自分は「近傍電磁界を用いたアンテナ特性解析」という研究を行っています。
  以下、簡単な理論なども含めて説明していきたいと思います。

近傍界・遠方界・準遠方界について/ 計算手法

実際にどういったことを研究しているのか?






・近傍界、遠方界、準遠方界について

 例えばアンテナ等の放射素子による電波伝搬を解析するとき、放射素子からの距離に よって電磁界は近傍界、遠方界、準遠方界といった電波の振る舞いが異なる3つの領域に分けることができます。
 単純に解析対象に対して極めて近い位置にある電磁界を近傍界といい、充分に遠方である電磁界を遠方界といいます。
 両領域の境目は数式的な定義により定められるのですが、実際には近傍界における伝搬の性質が遠方界でのそれに移り変わるまでの過渡的な領域が存在します。それが準遠方界です。
【図1】近傍〜遠方における電磁界の概要


 各領域界の一般的な特徴はそれぞれ以下のようになっています。

近傍界
・波源から放射される電磁波の1波長と比べてそれほど差がない距離における電磁界。
・電波伝搬の振る舞いは球面波のそれと同様。
・波源からの距離に対する電磁界分布の依存性が高い。
・電子機器から生じる電磁波の解析等はこの界に含まれる
準遠方界
・近傍界から遠方界に移り変わるまで過渡的な領域における電磁界。
・被測定機器の規模や計測環境の関係から実際の測定では遠方界ではなく、この界が対象となることも多い。
遠方界
・波源から放射される電磁波の1波長と比べて充分に離れた距離における電磁界。
・平面波状に伝搬する。
・電磁界の分布が波源からの距離によらず一定。
・アンテナ等の放射パターンはこの界において観測される。
 研究テーマは『準遠方電磁界解析』と銘打ってありますが、実際には準遠方界だけでなく遠方界までを解析対象としています。



・計算手法

 FDTD法は近傍界を対象として解析を行う計算手法です。なので遠方の電磁界をプログラムによって算出したい場合にはFDTD法とは別の解析手法が必要となります。
 そこで使用するのが「等価定理」を用いた遠方界の解析です。
 等価定理とは、簡潔に言ってしまうと解析対象となる波源をそのまま考えるのではなく、それと等価な閉曲面状の波源に変換して考えるという理論のことです。
 「等価定理」については前任者である中田氏のページでもっと詳しく解説されているのでそちらを参考にするのが良いかと思います。
 この等価定理に加え、ベクトルポテンシャルやGreenの公式を適用することで解析に用いる計算式を導き出せるわけです。その結果、実際に放射パターン等のシミュレーションもできるようになりました。また、アンテナから3m離れている地点における電磁波の電力を算出するといったことも可能となっています。
 下図はFDTD法で計算した8素子八木・宇田アンテナの近傍電磁界の数値から算出した遠方での放射パターンです。観測点がアンテナから100メートル離れている地点におけるものを考えました。

【図2】100m遠方の地点における8素子八木・宇田アンテナの放射パターン



・実際どういったことを研究しているのか?

 基本的には上記の計算手法を用いて近傍電磁界の測定値から遠方における電磁界の振る舞いを割り出すと いうことが自分の研究目的です。 本来、遠方での電磁界を計測することはそれなりの規模の装置や環境を要することではあるので、 実用に堪えるほどの結果が出せれば意味のあることだと言えます。
 読んでいて気づかれた方がいらっしゃるかもしれませんが、この辺りは当研究室の主な研究内容の一つである結合解法 (現在は渡辺氏篠原氏が担当)の目的とも通じるところがあります。
 もっとも自分のテーマの場合は最終的な目標を電子機器のノイズ等、自ら発信源を与えているわけではない電磁波を解析対象としているところが違うところと言えば違うところです。